自分であることに矯正も更生も必要ない。
今の社会へと導いた人間の愛の所在

アメリカの田舎町。牧師の父と信心深い母の一人息子として愛情を受けながら育ったジャレッドは、輝くような青春を送るなかで“自分は男性のことが好きだ”と気づく。ある事件をきっかけに両親に打ち明けると、同性愛を“治す”という危険な矯正セラピーを勧められてしまう。自らを偽り、別人のように生きることを強いる〈口外禁止〉のプログラム。施設に疑問を抱いたジャレッドは、ついにある行動を起こし、自らの環境から抜け出そうとするが…。

今、社会では多様性が掲げられ、いろいろな価値観が受け入れられる土壌が整いつつある(と思いたい)。しかし、昔からあったとはいえダイバーシティの声が叫ばれるまで至った過程に、本作で描かれるような事実が堆積していたのだろうと思うと身につまされる想いだ。人を愛することで形成される社会で暮らす人間としては、隣人の他人事とは思えなくなる。この物語の登場人物は、みんながみんな、自分が正しいと思い行動をしているから、その信念は揺るがず、大きな潮流となって周りの人々を飲み込んでしまう。ジャレッドが自らの同性愛的傾向に気づき、矯正セラピーを受ける間、スクリーンから溢れる不条理の洪水に窒息しそうになる。家族であれ友達であれ、愛するほどにすれ違ってしまう切なさが漂う。

息子を愛する両親も、矯正セラピーを行う指導者も一見正しく描かれているが、どこか歪んだ違和感を感じてしまう。そんな不穏な環境の中で、ジャレッドは社会的に正しくありたいという心と、男性に好意を寄せる感情こそ自分だというアイデンティティとの間で苦悩する。彼の(そして、演じているルーカス・ヘッジズの)遠慮気味に見せる笑顔や、意味をなさない矯正治療を見つめる眼差しひとつひとつに、諦めと希望が見え隠れする。本来、相手を認め、愛することこそ敬意を払われるべきことなのに。このままでは甘酸っぱい恋心でさえ、否定されつづけてしまう──やがて彼はセラピーを通して、本当の愛と希望の一端を掴む。その結末に多くの人が胸を震わせるに違いない。セクシャリティにかかわらず、マイノリティは誰も手が届かない檻に入れられ、監視される。自分は監視する側に身を置いていないか、エンドロールを見送りながら改めて見つめ直すだろう。


『ある少年の告白』

監督:ジョエル・エドガートン
出演:ルーカス・ヘッジズ、ニコール・キッドマン、ラッセル・クロウ、ジョエル・エドガートン、グザヴィエ・ドラン、トロイ・シヴァン
2019年4月19日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
©2018 UNERASED FILM, INC.

『ある少年の告白』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi