現代の国際社会に生きる
すべての人が観るべき社会派ドラマ!

1960年代半ば、酒癖の悪い青年チェイニーが、のちに妻となる恋人リンに尻を叩かれ政界への道を志す。型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルトのもとで政治の表と裏を学んだチェイニーは、次第に魔力的な権力の虜になっていく。大統領首席補佐官、国務長官の職を経て、ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任し、入念な準備のもとに影の大統領として振る舞い始める。2001年9月11日の同時多発テロ事件では、ブッシュを差し置いて危険対応にあたり、あの悪名高きイラク戦争へと国を導いていく。

アメリカの副大統領は、大統領が死亡したり、辞任したりした際にその代りとして昇格する役職で、「大統領の死を待つのが仕事」なんて揶揄されることもある。しかし、この目立たないポジションを巧みに使い、チェイニーはブッシュを操る。法を捻じ曲げ、国民への情報操作を行い、アメリカと世界の運命を劇的に変えてしまった。チェイニーは野心と権力を煮詰めて出来上がったような男だが、実際は妻を愛する夫であり、2人の娘を溺愛する父親であることも、本編の中で描かれている。そんな社会的に成り上がる男の2つの異なる面を、独特な映像表現で大胆に映し出す。時に過激に、時にポップに見せるストーリーテリングに、時間を忘れて引き込まれるだろう。

チェイニーは、どうしてこれほどまでに権力に固執し、世界をめちゃくちゃにかき回してしまったのか──。家族は、集団生活における最も身近で最も小さい構成要素であり、彼の場合は家族の中にすでに、小さなアメリカができていたからかもしれない。ブッシュにおけるチェイニーが、家ではチェイニーにおける妻リンであるというのだ。彼女は頭脳明晰の才女で野心もたっぷり。政治的影響を与えたのがラムズフェルトなら、人格的影響を与えたのがリンだろう。(それでもチェイニー一家がめちゃくちゃになっていないのは、家族規模の話であるのと、チェイニーが集団の主として優秀で、かつリンとは愛という固い絆で結ばれていたからだろう)

もちろんチェイニー自身の手腕と嗅覚があってこその権力掌握だ。これほどまでに副大統領が世界を動かしたこともない。本作のアダム・マッケイ監督は、彼を「独特の天才で、かつ官僚の天才」と評するほど魅せられていたようだ。チェイニーのキャリアを洗い出し、多くの同時者へのインタビューを重ねるなど綿密なリサーチにより、脚本を完成させた。彼の原動力や信念を極限まで掘り下げたこの映画は、チェイニーがいかに現代の米国政治に影響を与えたかを語る。その事実に誰もが驚きを隠せない。


『バイス』

監督:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェル
2019年4月5日より全国公開
© 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.

『バイス』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi