不器用な老人がたどる壮絶な結末は、
現代の40歳男子への戒めか、また慰めか

90歳になろうとするアール・ストーンは経済的な余裕がなくなるとともに、ないがしろにした家族からも見放され、孤独な日々を送っていた。そんなある日、男から「車の運転さえすれば金になる」と仕事を持ちかけられる。気ままに運転をしながらなんなくこなしていたが、ひょんなことから自分はメキシコ犯罪組織によるドラッグの運び屋をやっていたのだと気づく。大量のドラッグをうまく運び、多額の報酬を得るが、麻薬取締局の捜査官の手が迫ってきていた…。

メキシコで暗躍するカルテルの歴史上、もっとも成果を挙げた麻薬の運び屋は、誰も疑わないようなフツーのおじいちゃんだった。実際の事件を元に描かれた本作は、前代未聞のロードムービーであり、隣人は何者なのかという身近な怖さを感じるサスペンス作品であり、執拗な捜査をかいくぐるスリリングなクライム映画でもある。クリント・イーストウッド演じるアールは、かつて家庭を顧みずに仕事に打ち込んでいた、いわば古き良き時代のオヤジで、男子からみると今の時代には合わないものの、ある種のカッコよさを感じる。しかし、“家族の愛”という最も大事にするものをおろそかにしたツケは大きく、歳をとり窮地に陥ったことで生まれた自責の念は、彼を図らずとも犯罪へと走らせてしまった。

また、家族との関係を埋め合わせるいちばんの方法がお金だと思ってしまった彼は(もちろん生きていく上で、お金は大事!)、やがて自分の行いを正当化する。人は自分の居場所を正しいと思いたい生き物。たとえ選んだ道が、人の道から外れていようと、だ。本編からジワリと滲んでくる不気味さは、不穏な空気とともになぜか共感できてしまうから、また怖い。ただ必ずしも本作を観た人がアールに感情移入し、応援するわけではない。むしろ、現代においては反面教師になるだろう。優秀な運び屋に固執する麻薬組織と謎の運び屋を捕まえようとする捜査官に追い詰められるアール。老後の過ごし方にしてはあまりにも過酷すぎる。真面目な40歳男子はこう思うかもしれない。「ちゃんと働いてお金を貯めておこう…」。(または「こんなオヤジがいるなら、俺はまだ大丈夫だ」)。手に汗握る緊張感たっぷりの展開は、最後まで目が離せない。ラストにアールはどんな希望を得るのか、はたまた報いを受けるのか…鑑賞後、しっかりと自分の胸に刻んでおこう。


『運び屋』

監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ
2019年3月8日より全国公開
©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『運び屋』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi