イラクやシリアの“今”を伝える
戦う女性たちの生き様に胸を熱くする

女弁護士のバハールは愛する夫と息子と幸せに暮らしていたが、ある日、クルド人自治区の故郷の町でIS(イスラミックステート)の襲撃を受け、夫たち男性は全員殺されてしまう。バハールも息子と引き離され、奴隷として売られてしまう。数か月後、ISの陣地を脱出した彼女は人質にとられた息子を取り戻すため、女性武装部隊“太陽の女たち”のリーダーとなり、最前線でISと戦う日々を送っていた。そんな中、同じく小さな娘と離れ、取材にやってきた片眼の戦場記者マチルドと出会い、過酷な運命が待つ戦地で互いに心を通わせていく。

本作は2014年8月3日、ISの攻撃部隊がイラク北部のシンジャル山岳地帯に侵攻した出来事から着想を得ている。「女性に殺されたら天国へ行けない」と信じているISの戦闘員に対して、心理的な優越感を持って戦いに身を投じる、少数民族ヤズディ教徒の女性戦闘員たち。バハールの境遇は、2018年ノーベル平和賞を受賞し、自らも性暴力の被害者として、その実態を世界に訴え続けるシンジャル出身・ヤズディ教徒のナディア・ムラドさんと同じであり、ひるまず立ち上がりISと戦う彼女の生き様は、今もイラクやシリアで続く現実を描いている。

奴隷として売られるという経験をしながらも、今は戦闘員として憎むISと銃弾を交わすバハール。女性として母として、そして人としてのアイデンティティがぐらぐらと揺れ動く(「自分は何者なのか」「何のために生きるのか」がわからなくなった瞬間、人は本当の恐怖を抱くのかもしれない)。しかし、息子を思う愛や境遇への苦しみをひっくるめて自分を律するバハールの姿はとても力強く、同時に切ない。彼女を見ていると、この戦いは遠く離れた異国の地での出来事──そう思わないと一人では背負いきれない現実がスクリーンで繰り広げられるのだ。ここに登場する、バハールと同様に大きな喪失感を抱えながら取材を続ける戦場ジャーナリストのマチルドは、私たち観客に近い目線で物語を語ってくれる。2人の女性が命を賭けて激戦に赴く本当の理由を見届けてほしい。


『バハールの涙』

監督:エヴァ・ウッソン
出演:ゴルシフテ・ファラハニ、エマニュエル・ベルコほか
2019年1月19日より新宿ピカデリー&シネスイッチ銀座ほか全国公開
©2018 – Maneki Films – Wild Bunch – Arches Films – Gapbusters – 20 Steps Productions – RTBF (Télévision belge)

『バハールの涙』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi