大義から生まれた欲望と力に抗うのは
一人の青年の正義だった

2002年10月、24歳のアメリカ人青年マイケル・サリバンは、念願だった国連事務次長の特別補佐官の職を手に入れた。そして、国連事務次長のコスタ・パサリスの下で国連主導の人道支援である「石油・食料交換プログラム」(オイル・フォー・フード・プログラム)の担当となった。このプログラムは、国連が監視をする中で、サダム・フセインが大量破壊兵器を開発することを防ぎ、2000万人というイラク市民を助けることのできる理想的な計画…だと思われていた。だが、マイケルは大切な任務に奔走する中で驚愕の事実を知ってしまう。

1995年の安保理決議986に基づき、国連がイラクの石油を販売・管理し、その販売による利益をもとに、クエート侵攻後の経済制裁で困窮するイラク市民に食料や衣料品を配給するという人道支援計画が立ち上がる。しかし実際は、世界56カ国の政府や2000以上もの企業や政治家、実業家などが年間100億ドルという巨大予算に群がり、贈収賄や裏切りを繰り返す前代未聞の汚職事件へと姿を変えていった。主人公のサリバンは、小さい頃に亡くした外交官の父親の跡を継ぐことができると希望に胸を膨らませる青年だ。人道支援への熱い思いとやりがいを持つ若者に次々と降りかかる、上司の理不尽なミッションや身近な関係者の謎の死。疑いながらも見えない巨大な力に絡め取られてしまう様子は、本来の大義とは正反対に冷たく、淡々としていて、恐ろしい。

大きなテーマで言うならば“政治もの”だが、真実を追い求め、己の正義を貫く展開に“探偵もの”“スパイもの”の要素も持つ。観客はつねに、事実と真実は異なるという暗くドロっとした闇を突きつけられ、最後まで不穏な空気を感じて落ち着かない。そしてもっとも驚くのは、これが真実であるということ。原作は、国連職員として働いた経験のあるマイケル・スーサンが自身の体験をもとに書いた小説だ。彼はのちに「映画で描かれていることはほとんど事実。汚職に関わっているもののリストには尊敬する上司の名前もあった」と語っている。私たちが知っておくべき“歴史もの”としても一見の価値がある。


『バグダッド・スキャンダル』

監督:ペール・フライ
出演:テオ・ジェームズ、ベン・キングズレー、ジャクリーン・ビセット、ベルシム・ビルギン
2018年11月3日よりシネマカリテほか全国順次公開
©2016 CREATIVE ALLIANCE P IVS/ BFB PRODUCTIONS CANADA INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『バグダッド・スキャンダル』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi