人生を通して愛を求め、愛を与え続けた
女性はアート界に影響を与えた伝説となった

アートの都としても有名な水の都、ベネチアに、個人所有としては質、量ともに世界最大級のコレクションを誇る「ペギー・グッゲンハイム・コレクション」がある。この美術館を築いたのは、アメリカの現代美術コレクターのペギー・グッゲンハイムだ。彼女は、富裕な家系に生まれながら、伝統と格式だらけの世界から逃れるため、20代の頃に第一次大戦後の開放的な雰囲気にあふれるパリへ単身移り住むことに。当時、まだ価値を認められていなかったシュルレアリスムや抽象絵画のような同時代の革命的な表現に出会う。自由を謳歌する反骨的な芸術はペギーの肌になじみ、世間知らずの令嬢から現代美術のコレクターへ転身していく。

本作は、数十年の時を経て奇跡的に見つかったペギーの生前に収録されたインタビュー映像に基づき、彼女の人生を追ったドキュメンタリー。コレクターとして多くの芸術に触れたと同時に、多くの芸術家たちを支援し成功へと導いたという伝説のパトロネスとしての顔も描かれる(第二次大戦時にはマックス・エルンストやマルセル・デュシャンらと一緒に亡命もする!)。ペギーの許可を唯一もらった伝記の執筆者、ジャクリーン・ボグラッド・ウェルドや、ペギーの孫娘で「ペギー・グッゲンハイム・コレクション」の館長、キャロール・ヴェイル、画家だった自身の両親を支援してもらったロバート・デ・ニーロ、そのほかキュレーターや画商などさまざまな証言者が彼女の偉業や魅力を語っていく。

成功者への華麗な転身劇と対をなし、彼女の人生を追いかける上で切り離せない陰の部分も語られる。「収集作品より恋人のほうが多かった」「女性の自由と権利の“荒れた”見本」などと表されるほどの性への奔放さや愛の遍歴。幼少期に父親をタイタニック号で亡くしたことや最愛の姉の死を経験するなどいくつもの悲劇がペギーの土台をつくったとも言えるのだ。愛を渇望し、愛を与え続けようとした彼女は、ときに変わり者として、ときに独立した力強い人間として人の目に映ったのだろう。ペギーは「今、何が起きているか?」に興味があり、「何が新しくて素敵か?」を感じる鋭敏な感性を持っていたと、本作の監督、リサ・インモルディーノ・ヴリーランドはいう。そんなペギー・グッゲンハイムの一端に触れるだけでも価値がある。


『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』

監督:リサ・インモルディーノ・ヴリーランド
出演:ペギー・グッゲンハイム、ジャクリーン・ボグラッド・ウェルド、ラリー・ガゴシアン、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト、ロバート・デ・ニーロほか
2018年9月8日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
©️Roloff Beny / Courtesy of National Archives of Canada
©️“Courtesy of the Peggy Gugggenheim Collection Archives, Venice”.

『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi

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