「出会いは運命」の甘いテーマだが、終始気だるい雰囲気漂う異色のラブコメ作品。なんとなく生きづらさを感じている人におすすめしたいと語るふたりは、今作をどう読み解いたのか?
ワンダーランド駅で
--1998年公開の『ワンダーランド駅で』です。高橋さんおすすめの作品ですよね?
高橋芳朗(以下、高橋):個人的に思い入れの強い作品で、連載開始当初からずっと取り上げたいと思っていて。最近になってようやく配信されたことで念願叶って俎上に載せることができました。では、まずはあらすじから。「ボストンの街を走る地下鉄ブルーライン。ワンダーランド駅を終着駅とするこの路線は、いつも多くの利用客で混雑している。夜勤看護婦のエリン(ホープ・デイヴィス)と配管工のアラン(アラン・ゲルファン)もこのルートを使って通勤していた。ふたりの唯一の接点はこれだけ。そんななか、エリンは母親が勝手に出した新聞の恋人募集の広告に振り回され、アランは情熱的な女性に言い寄られ…。その間もふたりは駅で、水族館で、カフェでたびたびすれ違うことになるのだが、互いの存在には一向に気づかない…」というお話。
ジェーン・スー(以下、スー):私は初めて観た。すれ違いものだというのはすぐにわかったんだけど、まさか主役のふたりがあんなキワキワまで出会わないとは…!
高橋:設定としてはかなり斬新だよね。日本公開当時のキャッチコピーが「なかなかふたりは出逢えない」だったぐらいだから。
スー:キャッチコピーの言う通りだよ…。なかなか出会えなかったふたりだけど、お互いのどんなところに惹かれたのかハッキリさせてなくて、そこがちょっとミステリアスで良いのかもね。ちなみにヨシくんはどの辺が好きなの?
高橋:こういうミニシアターでかかりそうなインディーズ感覚あふれるアメリカのラブコメディが当時すごく新鮮で。さらにそれをボストンの古い落ち着いた街並みとヒロインのホープ・デイヴィスの低血圧そうな佇まいが拍車をかけているんだけど、極めつけはなんといっても全編ボサノバで占められた劇中の挿入歌だよね。「アメリカ製作のラブコメでこんな選曲するんだ!」って軽い衝撃だったな。ちなみにサウンドトラックの収録アーティストは、アントニオ・カルロス・ジョビン、エリス・レジーナ、マルコス・ヴァーリ、ワルター・ワンダレイ、タンバ・トリオ、アストラッド・ジルベルトなど。ボサノバの入門編としても機能するような有名アーティストの定番曲ばかりだね。
『ワンダーランド駅で』
監督:ブラッド・アンダーソン
脚本:ブラッド・アンダーソン、リン・ヴァウス
出演:ホープ・デイヴィス、アラン・ゲルファント、フィリップ・シーモア・ホフマン
公開:1999年12月18日(日本)
製作:アメリカ
Photos:AFLO
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。コラムニスト・ラジオパーソナリティ。老年の父と中年の娘の日常を描いたエッセイ『生きるとか死ぬとか父親とか』がドラマ化。TBSラジオ『生活は踊る』(月~木 11時~13時)オンエア中。
高橋芳朗
東京都出身。音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティー/選曲家。著書は『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』『生活が踊る歌』など。出演/選曲はTBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』『アフター6ジャンクション』『金曜ボイスログ』など。