過去のトラウマに囚われた元軍人が
消えた少女を通して見る孤独と残酷な日常

ジョーは行方不明者の捜索を請け負う人探しのプロ。元軍人であり、任務のためには人殺しも厭わない冷徹な部分も持ち合わせる。これまで人身売買や性犯罪の犠牲となった少女たちを救ってきた彼だが、かつて海兵隊として赴いた過酷な戦場の残像や、さらに幼少期に父親から受けたトラウマに自身も日々苛まれていた。そんなある日、州上院議員のアルバート・ヴォットから10代の娘ニーナを売春組織から連れ戻してほしいと依頼を受ける。淡々と、激しく、そして完璧に任務を遂行する…はずだったが、突然何者かに襲撃され、ニーナを奪われてしまう。

アカデミー賞に3度ノミネートされた俳優、ホアキン・フェニックスが演じるジョーは、心に深い傷や衝動を抱えながらも、実に繊細でピュアな男だ。自殺願望を持ち、死の世界に近づきながらも、人を助け、穏やかな老母の面倒を見る。人探しという生業に身を投じたワケや、体の奥底から湧き起こるような冷徹さも、彼のこれらアンビバレントな内面によるもの。人物背景がはっきり描かれることはないが、シーンの間に差し込まれる記憶やフラッシュバックが、観る者に自由に想像させる。ホアキンの渋く、生々しい演技と相まって、自分の体験のように感情移入してしまうのだ。

本作の監督は、映画『少年は残酷な弓を射る』以来、6年ぶりに新作を手がけたリン・ラムジー。彼女は撮影を振り返り、「原作はすごく短い作品で、そこには膨らませる余地があった」(ジョナサン・エイムズの90ページほどの中編小説『YOU WERE NEVER REALLY HERE』)、「(物語は)作る過程で変化していったし、ホアキンと一緒だからできたと思う」と語る。そんなホアキンとともに目を奪われるのが、ニーナ役を務めた14歳の新星、エカテリーナ・サムソノフ。無垢な透明感と、本人しか覗けないその奥にある闇をもつ少女を自然体で魅せた。また、シーンごとに感情を揺さぶるソリッドな映画音楽を、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが生み出している。

「バイオレンス」「ミステリー」「サスペンス」「ヒューマン」と、さまざまなジャンルが隙間なくクロスオーバーするストーリーのクライマックスに待ち受けるのは、鈍痛のような衝撃。観た後も我々を捉えて離さない非日常を、この週末に経験してみてはいかかだろうか。


『ビューティフル・デイ』

監督:リン・ラムジー
出演:ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、エカテリーナ・サムソノフ、ジョン・ドーマン、アレックス・マネット、アレッサンドロ・ニヴォラ
2018年6月1日より新宿バルト9ほか全国公開
© Why Not Productions, Channel Four Television Corporation, and The British Film Institute 2017.All Rights Reserved.© Alison Cohen Rosa / Why Not Productions
PG-12

映画『ビューティフル・デイ』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi