人生に迷う青年が見つけたのは
自分を変える苦い恋と夢の片鱗

これまで『(500)日のサマー』(2010年)でほろ苦い恋物語を、『gifted/ギフテッド』(2017年)で心温まる家族ドラマを手がけたマーク・ウェブ監督が、10年前に脚本に出会い、映画化を熱望していた本作。「かつてアートやカルチャーを先導していたニューヨークは今や商業主義に破れ、その輝きを失いつつある」。そんな喪失感を抱える主人公トーマス・ウェブは、アパートの隣人である怪しい中年W.F.ジェラルドと、ある夜目撃した父親の愛人ジョハンナとの出会いによって、退屈だった人生を一変させる。

一夜を共にしたのをきっかけにトーマスが思いを寄せるミミ(バンドマンの本命彼氏アリ)と、その一方で父との別れを説得しようと追いかけるうちに恋心を抱いてしまうジョハンナ。2人の女性をひとつの象徴にして、物語の中で彼は、本音と建前、夢と現実の間を振り子のように揺れ動く。そして、未完全な自分の姿を抱え、そこに漠然とした社会への不満を重ねる。若手俳優カラム・ターナー扮する文科系男子をスクリーンで追いかけるうちに、あの”何者でもなかった時代”に引き戻されていく。

トーマスは次々とW.F.に悩みを相談して行くうちに、自分の本当の気持ちと小説家への夢の輪郭がはっきりしてくることを感じる…。登場人物の豊かな心情を表すように、原題『The Only Living Boy in New York』にもなったサイモン&ガーファンクルの楽曲をはじめ、ボブ・ディラン、ルー・リードたちの名曲が劇中に溢れ、ニューヨークのリアルな人の営みを感じさせてくれる。

そしてエンディングに向かい、大きく振られた振り子が静かに動きを止める時、トーマスは思いがけない真実を目の当たりにする。きっと観客は驚きながら、涙するだろう。何者でもなかった彼は、若いだけの青春と決別し、今ひとりの大人として踏み出すのだった。


『さよなら、僕のマンハッタン』

監督:マーク・ウェブ
出演:カラム・ターナー、ケイト・ベッキンセール、ピアース・ブロスナン、カーシー・クレモンズ、ジェフ・ブリッジス
2018年4月14日より全国にて公開
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映画『さよなら、僕のマンハッタン』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi