コロナ禍で疲れてしまっている人、愛を信じられなくなっている人、生きづらさを感じている人…。そんな人たちの救いになるようなラブコメ最新作が登場! 心温まる作品に癒されてみては。
『1秒先の彼女』
「自分を愛そう、誰も愛してくれないから」
--今回は、新作かつ台湾のラブコメ作品『1秒先の彼女』です。アジアの作品を取り上げるのはこの連載初ですね。
ジェーン・スー(以下、スー):韓国や台湾の作品などアジアものはヨシくんも私も数を観ていないので取り上げてこなかったんですが、これはちょっと紹介したいなと思って。
高橋芳朗(以下、高橋):ツッコミどころもあるけどトータルでは優しくて良い映画だったな。では、まずはあらすじから。「郵便局で働くシャオチー(リー・ペイユー)は、仕事も恋もパッとしないアラサー女子。彼女は何をするにもワンテンポ早く、写真撮影では必ず目をつむってしまう上、映画を観て笑うタイミングもちょっとフライング気味。そんなある日、シャオチーはイケメンダンス講師とバレンタインデーにデートの約束をするものの、朝になって目が覚めるとなぜか一日飛び越えて翌日に。なんと、バレンタインデーの一日がまるごと消えてなくなってしまったのだ。その秘密を握るのは、毎日郵便局にやってくるワンテンポ遅いバス運転手のグアタイ(リウ・グァンティン)らしい。『消えた一日』の謎を探し始めたシャオチーが最終的に見つけたものとは…!?」というお話。
スー:メッセージは「みんな自分のペースで生きていい。誰かが必ずあなたを見ていてくれるから」だよね。「自分を愛する」理由が最初と最後で反転する流れが鮮やかだったわ。生きづらさを抱えた人や、いまちょっと疲れている人に観てもらいたいな。これは好みの分かれるところだけれど、人物キャラクターが一元的にしか描かれていないのも、寓話的で私は好きでした。悪者は悪者、生きづらい人は生きづらい人、明るい人は明るい人、としてのみ描かれている。なぜなら、物語の構造が複雑だから! そうは感じさせないトーンだけどね。
※以下、ネタバレを含みます。
「自分を愛そう、誰かが愛してくれているから」
高橋:最初は「自分を愛そう、誰も愛してくれないから」と信じて生きていたシャオチーが、最後には「自分を愛そう、誰かが愛してくれているから」と考えを改めるのは本当に感動的。それに呼応するような前半のラジオパーソナリティーのメッセージ「人生とはたくさんの記憶のパズル。恋が記憶を創造するんだ。お互い相手の記憶に刻まれていたら最高だね。でも君の大切な記憶は相手にとって無意味かも。それが人生だね」も素晴らしいね。
スー:見逃してた! もう一回見直すわ! これはDVD買わなきゃ案件だね。でも、一回目は映画館で観て欲しい!
高橋:この映画は二回目こそが本番かもしれないな(笑)。映画のど頭から「ずれた人生の歌」としてエンドロールで流れるビー・ジーズの「I Started a Joke」まで、ぜひともディテールまで深掘りしていただきたい!
『1秒先の彼女』
監督・脚本:チェン・ユーシュン(『熱帯魚』『ラブ ゴーゴー』)
出演:リウ・グァンティン、リー・ペイユー、ダンカン・チョウ、ヘイ・ジャアジャア
©MandarinVision Co, Ltd
2021年6月25日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
『1秒先の彼女』公式HP
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。コラムニスト・ラジオパーソナリティ。老年の父と中年の娘の日常を描いたエッセイ『生きるとか死ぬとか父親とか』がドラマ化(テレビ東京 金曜日0:12~)TBSラジオ『生活は踊る』(月~木 11時~13時)オンエア中。
高橋芳朗
東京都出身。音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティー/選曲家。著書は『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』『生活が踊る歌』など。出演/選曲はTBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』『アフター6ジャンクション』『金曜ボイスログ』など。