ジョージ ナカシマのモノ作りと、素材への向き合い方に共感

香川県高松市にある「ジョージ ナカシマ記念館」は、現在同氏のブランドの家具を製作する「桜製作所」に隣接。木の持つ自然そのままの美しさを家具へと落とし込んだプロダクトは、時代に流されないデザインが魅力。天然木ならではの優しい風合いを活かしながら、ずっと触れていたくなるような優しいフォルムと質感を兼ね備えている。


「ロスのとあるカフェを訪れた際、とても素敵な佇まいの椅子と出会い、ひと目惚れしました。その椅子こそがジョージ ナカシマの『グラスシート』でした。そのアイテムはヴィンテージでとても高価だったんですが、銀座のショールームで現行品を見つけて、すぐに購入しました。ジョージ ナカシマのすごさは筆舌に尽くし難いですが、ひと言で言うなら、すべてが“現行品”。作品に対してピリオドがないんですよね」




記念館を訪れた藤井さんを迎えてくれたのは、桜製作所の社長・永見宏介さん。ジョージ ナカシマの家具を作っている工場内を特別に案内いただきながら、それぞれの作品の特徴や製造工程に取り入れている創意工夫、さらには素材を取り巻く実情についても教えてもらった。

「ジョージ・ナカシマの作品作りの特徴に、作りたいもののために木を加工するのではなく、木を見てそこからどんなデザインのものを作ることができるかを考えるという独自の方法論が挙げられます。素材となる天然木を愛し、尊重するこの姿勢は、他の家具デザイナーとは一線を画しているといえるでしょう。また、家具を構築する細かなパーツへのこだわり、なかでも肌触りに対する追求も特筆すべきポイントです」(永見さん)


工場を見て回る藤井さんが目を留めたのは、代表作「グラスシートチェア」の座面に使用するいぐさのヒモ。グラスシートチェアの座り心地を司る重要なパーツだが、国内で作られるいぐさのヒモは生産が減っており、いずれは消失してしまうという実情もあるそう。




「ヒモから出ている細かなケバを、職人さんが一つひとつ手作業で切り落としているのには驚きました。それに、いぐさのヒモがなくなったらグラスシートチェアは作らない、という潔い姿勢にも脱帽です」


「チェアの背面に使う棒状のパーツも、機械で削り出したものにあえて手作業でカンナを当てて仕上げているそうです。効率よりもクオリティーを重視し、手で触れながら手で作る。そうしたこだわりこそが『Made in Japan』の真髄だと思いますし、服を作る自分としても、襟を正す思いです。そして、いいものを作っている工場は、やはりキレイですよね。家具のパーツが整然と並ぶバックヤードは美しいのひとことでした」



「カローラ」ブランドに感じる、ブランドやプロダクトが受け継がれてゆくことの凄さ

記念館を後にした藤井さんは再びカローラクロスへと乗り込み、海沿いのルートを流しながら瀬戸大橋方面へとドライブを再開。ジョージ・ナカシマ氏のものづくりに対する姿勢と、それを忠実に受け継ぎ再現する桜製作所の仕事を思い返しながら、あらためて感じたことを話してくれた。


「木を見て、そこから作るものを見いだすジョージ・ナカシマの考え方は、自分も生地ありきでどういうウェアをつくろうか、どういうデザインにしようかと考えることが多いので、同じ目的意識のようなシンパシーを感じました。そのようにものづくりをしていくと、デザインよりも使い勝手が先にくるんですよね。ブランドの地位やデザイナーの著名性に重きを置いた『作品』ではなく、使い勝手のいい『プロダクト』をつくることが大切である。そういった自分の“いいもの”への考え方は間違っていないのだと、あらためて確認することができました」



さらに、そうした“いいもの”は自ずと人々の間で継承され、継承される中で様々なストーリーを纏いながら昇華していくものだとも。

「1966年に誕生したこのカローラというブランドもそうですが、おじいちゃんが乗って、お父さんが乗って、そしてカローラクロスに今の若者が乗る。そんな風に、歴代のカローラに対してそれぞれが思い入れを持ち、いろいろなところへ行った想い出も積んでいるわけですよね。それって素晴らしいことだし、受け継がれていくことって、そう簡単な話ではないと思うんです」




「もちろんカローラクロスも、走行性能や広々とした車内空間、高級感があるのに手にしやすい価格という優秀な部分がしっかりとある。デザインにしても、ちゃんと“カッコいい”と思えるのに、奇抜だったりとんがりすぎたりはしていない。そのデザインの考え方には共感できますね。こういった“いいもの”じゃないと淘汰され、世代を超えて受け継がれることはありませんから」



再認識した“Made in JAPAN”の価値と、「nonnative」が支持される所以

そして後日、カローラクロスとの香川での体験で感じ取ったものづくりへの考え方を落とし込んだ、2022年4月リリース予定の新作のサンプルが完成したとのことで、都内のオフィスにいる藤井さんのもとへ。


「桜製作所では継承され続ける『made in Japan』の職人の技、素材を活かしたものづくりの精神に触れることができました。そしてカローラクロスからは、大衆に広く受け入れられているビッグブランドにおいて、使い勝手とカッコよさを両立した新しいプロダクトをいかに生み出すか、ということへのひとつの答えを体感することができました」

そう語る藤井さんの前には、「nonnative」の41番目のコレクション(2022年4月リリース予定)で制作したワークジャケットのセットアップのサンプルが。


「岡山県の中白染(なかじろぞめ)という技法で染め上げました。敢えて糸の中心にある白い部分を残して染めるため、適度なあたりも出ていい風合いに変化していきます。染色時に発生する伸縮や素材の硬さなども加味して試行錯誤して……と、こういった話を押し付けることは実はしたくなくて、やはりまずは『カッコいいから』という理由で手に取って欲しい。作り手のエゴを前に出すのは、あまりかっこよくないですからね(笑)」




語りすぎず、飾りすぎず、真摯に“いいもの”を追及することを貫く……その姿勢こそが「nonnative」が長年多くのファンからが支持され続けている所以。香川での一日は、ものづくりにおけるそのポリシーが間違っていないことを再確認する旅となった。


トヨタ「カローラクロス」公式サイト
PROFILE: 藤井隆行 Takayuki Fujii
奈良県出身。大手セレクトショップのスタッフなどを経て、2001年に「nonnative」のデザイナーに就任。ワークやミリタリーウェアのデザインを基軸に、素材や縫製などの細部までこだわりながら再構築するアイテムは、従来のデザインと機能性を活かしながら快適性を高めた、大人のスタンダードとして多くのファンに支持されている。ブランドとのコラボレーションアイテムや、藤井氏監修によるプロジェクトも多数展開中。
https://nonnative.com/

Text: Noritatsu Nakazawa
Photos: Yozo Yoshino