インテリアデザインでも世界的中核都市であるミラノ。ここで毎年春に開催されるミラノデザインウィークにて、LEXUSが今年もインスタレーションを開催。ファッションディレクターの金子恵治さんと現地へ飛んだ。
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6輪が特徴的な「LEXUS LS Concept」。インスタレーションの中心にクルマを据えてメッセージを発信するのは初の試み。今回のミラノデザインウィークにおける大きな挑戦だった。
昨年秋、トヨタ自動車の高級車である「センチュリー」が独立ブランド化したことで、同社の最高級セグメントはセンチュリーが担うことになった。その一方で「LEXUS(レクサス)」は、より自由にクリエイティビティを追求できるようになったのだ。LEXUSが掲げた新しいブランドメッセージ「“DISCOVER” -誰の真似もしない-」には、独自性を追求するという姿勢が表れており、その象徴が、「LEXUS LS Concept」だ。
LSとはLEXUSのフラッグシップのことで、これまではL=Luxury、S=Sedanを意味していた。これをLuxury Spaceへと再定義したのがこの写真のショーファー・ドリブン(オーナーが後ろに乗り、専属運転手が運転する自動車)で、ワンボックスタイプのボディの後輪を4本の小径タイヤにし、計6輪にすることで車内空間を大きく広げている。
サステナブルな竹素材や、天童木工による曲げ木などを用いた上質な車内。2列目はとても広くて快適。3列目からもスムーズに乗り降りできる。まさしく、プライバシーを守りながら快適に移動できる“聖域”だ。
LEXUSはこのクルマを中心に、どのようなモビリティの未来を描くのか? その答えを、世界最大級のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」にて、インスタレーションという形で表現した。このイベントを現地で体験したのが、ファッションディレクターの金子恵治さん。まずはLEXUSのデザイン部部長、須賀厚一さんとの対談からお届けしよう。
金子 ファッションの仕事をしていると、ミラノ=ファッションの街。ミラノデザインウィークは、家具などを紹介するイベントなのかな?というイメージしかありませんでした。そこに自動車ブランドであるLEXUSが参加していると聞いて驚きました。
須賀 LEXUSがミラノデザインウィークに参加し始めたのは、20年以上前になります。当時はLEXUSをラグジュアリーブランドとして広めたいという想いがありました。ブランドを構築する手探りの状態の中で、あえて領域が異なるミラノのインテリアデザインのイベントに注目し、ブランドのメッセージを発信したのが始まりです。多くのクリエイターと協業し、LEXUSの考え方をインスタレーションに置き換えて発信してきました。
ファッションディレクターの金子恵治さん(左)と語り合う、レクサスデザイン部の須賀厚一部長(右)。1988年トヨタ自動車に入社。海外経験を経て2010年にレクサスデザイン部へ。多くのプロジェクトに参画し、’18年より現職。
今年のメインのインスタレーションは「LEXUS LS Concept」を中心に据えた「SPACE」。入り口から円形の展示会場に入ると、クルマを取り囲むように360度のスクリーンがあり、音や光の演出で、自分が世界の中心にいるような新しい体験へと誘う。映像は陸・海・空を表現し、観客はその中を動き回る。移動は目的地に到達する手段ではなく、ライフスタイルそのものを豊かにしてくれるのだ。
須賀 「LEXUS LS Concept」では移動体験を表現しましたが、これからのわれわれは「360度のモビリティ」をテーマに、双胴船の「LEXUS Catamaran Concept」や空のモビリティ「Joby」など、多彩なモビリティの開発を進めます。今回のインスタレーション「SPACE」は、LEXUSならどこにでも移動できるというメッセージなのです。
金子 没入感がすごい。わずか数分で、あらゆる場所へと移動している感覚になりました。言葉を聞かなくても、展示を見て、触れて、音を聴くことで感じられる表現力に驚きました。しかし、クルマにおけるラグジュアリーの表現として車内空間に着目するとは、まったく想像できませんでしたね。
須賀 洋服にはタキシードやスーツなどの形式がありますよね。しかし形式に縛られてしまうと、新しいアイデアは出てこない。クルマの場合も、ある程度のデザインの形式が決まっていますが、それを全部取っ払って、リラックスできる空間をつくってみた。それこそ、壁紙や窓、光の取り入れ方などから発想していきました。だから従来のクルマとはデザインのアプローチがだいぶ異なります。
ミラノデザインウィーク中は、市内全体がお祭り騒ぎ。各所でイベントや展示が行われる。LEXUSのインスタレーションは、市の南西部に位置するトルトーナ地区にある「スーパースタジオ・ピュー」で開かれた。
金子 完成したものを前にすると簡単な話にも聞こえますが、誰の真似もしないという「DISCOVER」の考え方は簡単ではない。この言葉を聞いてすごく感銘を受けました。僕は洋服のバイイングを長年仕事にしていましたが、なんでこんなに長く続けられるんだろうと思ったときに、まず自分がとにかく発見が好きだということに気づいたんです。探求心って、経験を積むほど落ちてくるじゃないですか。でも“発見”することで、感度や感性が高まってくる。今まで知らなかった世界に触れることで、何かを発見したい、本質を突き詰めたいという気持ちは強くなる。それはもはや仕事のためじゃないんです。だから、今回「LEXUS LS Concept」やLEXUSの考えを聞いて、強く共感できました。
須賀 それはうれしいですね。
双胴船の「LEXUS Catamaran Concept」は模型で展示された。さらに写真などでLEXUSの進む道も表現。
LEXUSらしさとは、パイオニア精神である。品質やサービスで新しいラグジュアリーカーの基準を作り、今度はモビリティの概念を変えようとしている。
ミラノデザインウィークは、純度の高いクリエイティビティだけが主役になれる場所。そこでLEXUSは、確かな答えを出した。
「表現もスケールも盛り上がりもすべてが想像を超えていました」
昨年のミラノデザインウィークから始まった「Discover Together」は、気鋭のクリエイターたちが、LEXUSのブランドビジョンや哲学から着想を得て、独自の視点で作品にするもの。今回は“Discover Your Space” をテーマとし、国籍もジャンルも異なる4組のクリエイターが参加。「LEXUS LS Concept」の後部座席のスペースを一つの箱としてとらえ、さまざまな空間を表現した。巨大なホールの中に展示が点在する空間演出は、桂離宮をイメージし、天井からのスポットライトが進むルートを指し示す。
映像作家とアートディレクターによるクリエイティブデュオが制作した「VISIBLE INVISIBLE/みえるもの みえないこと」。金子さんは正座し、しばし時間を忘れる。
VISIBLE INVISIBLE/みえるもの みえないこと」は、映像作家の林響太朗とアートディレクターの黒谷優美による作品。隅に小さなにじり口があり、この空間を光の移ろいによって時の流れを感じる茶室に見立てた。中に入ると外界とは切り離され、壁面には時の移ろいを表現した美しい映像が流れ、目と心をゆだねる。ゆったりとした時間が心地よい。
デジタルインタラクティブデザインを得意とする、オランダのランダム・スタジオが制作した「A Moving Sanctuary」。光と音の効果もあって、包まれるような心地よさが特徴。
オランダのランダム・スタジオによる作品「A Moving Sanctuary」は、やや傾斜した内部空間に身体を横たえると、内蔵された熱感知システムでその人の呼吸のリズムを読み取って光と音が変化する。繭のように包み込まれ、リラックスできる空間だ。
世界的にも評価の高い日本の伝統的手工芸を取り入れた「The Crafted Cosmos」。その繊細な手仕事に、金子さんもつい背筋が伸びる。
日本の職人とレクサスインハウスデザイナーによる「The Crafted Cosmos」では、指勘建具工芸による組子や成型合板の曲げ木加工などが融合し、精密な“手仕事の宇宙”が生まれた。椅子に座って間近に見ると、その精度に圧倒される。
ファッションデザイナーと建築家が率いるGuardini Ciuffreda Studioによる「WEARABLE SPACE」。光ファイバーの衣装をまとうと、自分自身が鮮やかな光に包まれる。フォトスポットとしても人気だった。
そして、イタリアのGuardini Ciuffreda Studioの「WEARABLE SPACE」。鏡張りの空間に光ファイバーを繊細に縫い込んだ巨大な一着のコートを設置。中央の椅子に座ってそれをまとうと、その人の動きに合わせて光が動く。ファッションと空間が融合する不思議な体験だ。
金子 それぞれ素晴らしくて、同じ空間とは思えない自由な広がりがありました。しかもどれからも、この空間にずっと浸っていたいと思える居心地のよさを感じます。例えば「WEARABLE SPACE」は、自分と同じファッション関係者が携わっているので、思考のプロセスにがぜん興味が湧きました。実際にインタビューもさせてもらいましたが、オーバーコートをはおるという行為に、一つの絵画や全世界、全宇宙に抱き込まれることを表現したかったという創造性に圧倒されました。光ファイバーを使った現代的なテクノロジーを用いる一方で、刺繡は職人技。美しさは感動的でしたね。
クリエイティブの世界にAI生成などの新しい波が押し寄せる昨今、LEXUSはオリジナリティに向き合う。それは同様にクリエイションを大切にする金子さんの心を揺さぶる。
金子 自分もモノをつくる仕事が多いので、ゼロから生み出そうとするLEXUSの強い気持ちに圧倒されました。DISCOVERというビジョンには共感しかありません。今後の仕事への大きな発見が得られました。
ミラノデザインウィークは、感性と感性が響き合う場所。世界中から訪れた多くの来場者の誰もが笑顔でインスタレーションを楽しむ姿が、これからのLEXUSが進む道が正解であることを示している。
金子恵治
ファッションディレクター L’ECHOPPEでバイヤーやコンセプターを務め、独立。現在はブランドのディレクションや監修をするほか、青山に自身の店舗を持ち、ファッションにまつわる活動を幅広く行う。