シャネルのメンズ・フレグランスの世界観を象徴するのが、「ブルー ドゥ シャネル」のライン。その最新にして究極なのが、ローンチされたばかりの「ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ」だ。既存の3つの香調よりもさらに深みがあり、力強さを感じさせ、どこかミステリアス。シャネルの専属調香師オリヴィエ ポルジュが、そのコンセプトから原料、調香秘話、そして魅力までを語ってくれた。

「ブルー ドゥ シャネル」の歴史を振り返って、ラインのバックボーンを学んだ
オリヴィエの父でシャネルの専属調香師を約35年務めたジャック ポルジュが、オリジナルの「ブルー ドゥ シャネル オードゥ トワレット」を手がけたのは、2010年のこと、一躍メンズ・フレグランスのトップランクに躍り出たこの香りは、4年後にはオードゥ パルファム、そしてさらに4年後にはパルファムへと進化してきた。濃度だけでアップグレードすると、その次の段階は “エクストレ ドゥ パルファム”となるところ、新たなブルー ドゥ シャネルで求めたのは別の形。それが発表されたばかりの「ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ」だ。
「父が初めての『ブルー ドゥ シャネル』である『ブルー ドゥ シャネル オードゥ トワレット』を作った時期は、まだメンズ・フレグランスの主流は“フレッシュな香り”でした。いわば清潔感が漂う香りですね。父はそんな傾向には迎合せず、センシュアルさを目指して、セダーを主役としたウッディな香りを提案したんです。ムスクでアロマティックなタッチも潜ませて」。
基盤となる香りを進化させるには、単に原料の配合濃度を高めるだけでは終わらない。別の原料や異なる蒸留法を探究し、新たなフォーミュラを作るのだ。「ブルー ドゥ シャネル」のラインも例外ではない。

「次に『ブルー ドゥ シャネル オードゥ パルファム』でオリジナルを進化させるにあたり、父がセダーに加えたのは、アンバーでした。それによって温かみが出ましたね」。
調香は一種の化学であり、ある原料が他の原料に反応して新たな側面を見せることがあると聞く。オリヴィエはいわゆる香りの“錬金術”について、噛み砕いて説明してくれた。
「アンバーはどんな原料にも影響を与えるんですが、特にセダーと一緒になると本質を発揮します。たとえて言えば、香水の原料のチャート上で、この二つは同じラインに位置します。つまり二つは対話して、お互いの良さを引き出すんです」。
父による二つの香りを踏まえた上で、オリヴィエは「ブルー ドゥ シャネル」を引き継いだ。2018年「ブルー ドゥ シャネル パルファム」の誕生だ。
「3世代目で、私はセダー/アンバーの組み合わせをアップグレードし、ウッディなノートをより発展させました。ここで大切になるのがサンダルウッドです。そのおかげで、食感にたとえて言えばクリーミーなまろやかさが加わりました」。
洗練の限界に挑んだ「ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ」
ひとつの香りのラインは通常、“パルファム”のコンポジションはほぼそのままに濃度を高めた “エクストレ ドゥ パルファム”で、頂点に達する。しかしシグネチャーを守りつつ香りに深みを与えた“進化形”を求めて、ブルー ドゥ シャネルは新しいコンポジションに挑んだ。文字通りエクスクルーシブで、唯一無二の香りを成す原料とは?

「サンダルウッド、その中でも特別なものです。ニューカレドニア諸島、本島のそばに位置するマレ島を産地とする、最高級の素材です。さらにシャネルではそれを低温蒸留しています。植物独特の芳香を放つ原料は、蒸留の温度や方法によってその分子が変化するもの。わたしたちの特別なシステムのおかげで、このサンダルウッドは本来の香りと質を変え、“美味しそうな”香りに変化します。これを加えることで『ブルー ドゥ シャネル』のシグネチャーであるウッディ・ノートはますます強調され、レザー・ノートまで帯びるようになりました。またシスタス・ラブダナムで、お香に似たアクセントも加えたのです」。

熱を加えずとも甘い香りを放つ香木、サンダルウッド。そしてシスタスと言う植物から抽出され、お香の材料にも使われる芳香樹脂、シスタス・ラブダナム。これらの特別な原料を盛り込んだ「ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ」の背後には、揺るぎのないコンセプトがある。
「『ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ』では、ウィメンズの香りづくりで発展させてきたシャネルならではのサヴォアフェールと価値観を、メンズにも適用しました。具体的には、複雑な調香技術と、最高峰の原料の選択眼です。多種多様なオードゥ パルファムからなるシャネルのフレグランス『レゼクスクルジフ ドゥ シャネル』コレクションに顕著な特性ですね。『ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ』は、その一連に匹敵するほど独創的で、並みはずれて洗練された香りに仕上がりました。『レゼクスクルジフ ドゥ シャネル』は男性の使用者も多いと聞きますから、その真髄を『ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ』とシェアさせるのは、興味深い試みでした」。

こう聞くと、“レゼクスクルジフ”(=エクスクルーシブ)と言うネーミングにも納得が行く。では、既存の香りのアップデートとまったく新しい香りのクリエイションでは、オリヴィエのアプローチはどう異なるのだろうか?
「『ブルー ドゥ シャネル』のようにオリジナルを進化させる場合は基準がありますから、助けにはなります。でも新作を作る場合も何かしらの参考はありますから、結局それほど違いはありません。何より、私にとって両方のケースの軸となるのはシャネルと言うメゾンです」。

「ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ」その香りとボトル
シャネルならではの「軸」とは、香水の歴史、既存の作品が多数あること。そして何よりも、希少な原料を使い、最高の技術で香りを作れることだ。ではそうしてできた『ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ』の香りの特徴とは?
「ウッディなノートを別のアングルから見つめることで生まれた、リッチで深みのある香りです。とはいえ一番しっくり来るのは“ミステリアス”、という言葉ですね。ビジュアル的にはボトルのブルーのようにダークで、ひっそりとふけて行く夜の闇を思わせます。“強い”、“威厳のある”もぴったりの形容詞です。そして先ほども挙げたシャネル特有の概念、“エクスクルーシブ”。しかしとても抽象的なものである香りを言葉で表現するのは、難しいですね」。

さらに、『ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ』のエスプリを詰めたボトルをじっくりと見てみよう。
「これまでの『ブルー ドゥ シャネル』の例に漏れずスクエアですが、厚みがあります。よって、重厚さを与え、香り自体が強さを増していることに呼応しています。このボリュームのあるボトルを掴むジェスチャーも、さらに力強い印象を与えるでしょう」。

最後にオリヴィエに、「ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ」の男性像についてたずねてみた。
「それは私にはわかりません。女性が手に取るかもしれませんし(笑)。昨今、男性の香りの好みは変わってきていて、ユニークな香水に興味を持つ人が増えたようです。とは言え調香師の楽しみはニーズよりも直感を信じ、一種の賭けとして作った香りがどう受け止められるかを傍観すること。調香はいつもチャレンジですから。今一つだけ私が言えるのは、『ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ』は、『ブルー ドゥ シャネル』の初心者にもアピールするだろう、ということ。これも直感ですが(笑)」。

ブルー ドゥ シャネル レゼクスクルジフ
60ml¥24,700(税別) ¥27,170 (税込)
100ml¥34,800 (税別)¥38,280 (税込)
南仏の香水作りの聖地、グラースに生まれる。アート史を学んだものの、35年あまりの間シャネルの専属調香師を務めた父ジャック ポルジュの影響で、香りの成り立ちに興味を持ち始める。地元グラースやジュネーヴの学校で香りの原料と調香のノウハウを学んだ後、ニューヨークのIFF(INTERNATIONAL FLAVORS AND FRAGRANCES)で経験を積む。2013年にはシャネルのフレグランス研究所の一員となり、2015年よりメゾンの専属調香師に。これまでウィメンズでは「シャネル N゜5 ロー」、「チャンス オー ヴィーヴ」「チャンス オー スプランディド」を、メンズでは「ブルー ドゥ シャネル パルファム」を手がけた。