2021.08.02

スニーカーの存在意義を変えた「エア マックス95」【教えて! 東京スニーカー氏】

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回はスニーカーの存在意義を変えたモデルについて。

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2010年代のスニーカーは、買い時よりも売り時を考えられるモデルが人気になりました。つまり投資価値がすべてです。ジョーダンもやはり後先考えたときに値段が落ちにくい、1STが一歩抜けています。僕も久しぶりに黒赤のブレッドが履きたくなりました。白Tシャツにオフ白のパンツを合わせて、’90年代っぽくいきたいです。私物

この場を借りて思いきり宣伝しますが、このたび著作としては2冊目となる新書を上梓することになりました。もちろん、お題はスニーカーです。この連載タイトルのネタ元でもある前作の『東京スニーカー史』からはや5年がたち、スニーカー市場は劇的に膨れ上がり、気がつけば2010年代は、前半と後半だけでも大きな違いがありました。前作ではその前半のみを、事象をかいつまむ程度でしか書き記せなかったのですが、今回の本では後半の5年間を整理することで、流れをしっかりキャッチできたと思います。その瞬間では見えてないことも、過去になるとクリアに見渡せることがある。これは人生何にでも言えること。’90年代の熱狂は何が原因で、未来にどんな影響を及ぼしたか。その文脈も自分なりにまとめたつもりです。

 2010年代の爆発的なブームは、デジタルの発展なくしてあり得ませんでした。iPhoneが普及し、インスタグラムが流行に。手を広げても届かない大きなものをコンパクトにするデジタルは、あちこちに充満する巨大なエネルギーを集約する役割を担い、小さな日本よりも巨大なアメリカと中国を主役にしました。この二つの大陸を象徴するヒップホップと爆買い、フェイク、投資、マイノリティといったカルチャーやキーワードがスニーカーを操作しました。勤勉なタンス貯金が得意な日本のスタイルはもはや世界をリードすることはできず、むしろ追う立場に。グローバルリテラシーのある人だけが勝ち残れた、往年のファンには難しい10年間だったと思います。

 そういった’90年代から現在までの流れを今回はインタビュー取材をせず、自分の感覚と主観で綴ったのが『1995年のエアマックス』(中央公論新社、7月7日発売)です。僕のいちばんのこだわりは、なるべく多くのスニーカーを登場させないこと。これは多くのスニーカー雑誌とは逆のアプローチだと思います。競馬でいえば、先頭集団の移り変わりをわかりやすく追ったイメージ。出走馬すべての血統や戦績を詳しく書くのも好きですが、今回はマニアックな評価を得ることよりも、スニーカーと世の中の動きを結びつけることでよりおっさん世代に懐かしく、読みやすい入門本にしたかったのです。ちなみに騎手は人からスマホに変わりました。そんな感覚も「そうなんだ」より「そうだよね」とみんなに共感してもらえる本になればうれしいです。

 タイトルにも使った「1995年のエアマックス」はあくまで本編の主役ではありませんが、読後にやっぱりこの靴が原点だったんだなあと感じてもらえれば。現代のスニーカーの主役はダンクであり、ニューバランスの992や993であり、相変わらずエア ジョーダンです。でも、そこに至るまでにはエア マックス95があり、スニーカーの存在意義を変えたことがすべての始まり。あとはぜひ、本を読んでください。夢は大きく100万部! 皆さんの購入と拡散をよろしくお願いします。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa

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