2021.03.03

祐真朋樹の密かな買い物Vol.82 ロメオ ジリのハーフコート|2021年2・3月合併号掲載

約40年、いろんなデザイナーの服を着てきた。欲しくて欲しくて海外まで買いに行ったり、似合っているのか微妙な服に大枚をはたいたり…。一体僕はどれだけの金額を服に捧げたのだろう。その無駄遣いが教えてくれたことは何だろう? 僕の熱望が引き寄せた服や小物の数々は、今も時代を超えておしゃれを伝えてくれている。“着る喜び”を、今日も僕に教え続けてくれている。

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先日、事務所を引っ越した際、クロゼットの隅に放置してあった服を久しぶりに手に取った。これまでもそれらの存在はわかっていたが、諸々面倒なのでわざと知らんぷりしていたのだ。が、手に取ると迷うことなく袖を通してしまう。パブロフの犬のごとく、服に触れた瞬間、僕は次々と試着を始めた。そして「今また着られるのでは?」と都合のいい願望が僕を襲う。客観的に見ればほとんどは単なる古い服にすぎないのだが、どれも丁寧に作られていてコンディションはいい。購入した25〜30年前のことが、まるで昨日の出来事のように甦る。今回は、そんな“放置ラック”に放置されていた、僕の愛する3点の服を取り上げることに決めた。

まず、ロメオ ジリのコートは確か1989年か’90年に買ったもの。’90年前後はアンコンブームのまっただ中で、僕はロメオ ジリの服に興味津々だった。このハーフコートは、当時ミラノにあったフラッグシップショップで勢いにまかせて買ったのだが、着る機会が少なく、30年前の服とは思えないほどフレッシュな状態を保っていた。若い世代にはロメオ ジリを知る人は少ないと思うが、最近だと映画『マックイーン:モードの反逆児』の中で、若きアレキサンダー・マックイーンがミラノへ単身武者修行の旅に出て、ロメオ ジリのアトリエで猛烈に葛藤した話が出てくる。ロメオ ジリのテーラーリングが、その頃にどれだけ輝いていたかがわかる。それなのにこのコートをあまり着なかった理由は、当時20代半ばの僕には大人っぽすぎたからだった。

グッチのタートルネックセーターは、’93年頃にローマのグッチで購入した。当時はグッチがリブランドをして間もない頃で、トム・フォードがレディスのデザイナーを務めていたが、クリエイティブディレクターとしてはまだ表に出ていなかった。だが、当時の広告写真がすこぶる格好よく、雑誌でもイケてるページに紹介され始めたりしていて、まさにグッチ復活が目前という頃だった。ローマの店では、タートルネックセーターを2枚(もう一枚はピンクベース)とビブラムソールのビットローファーを衝動買い。ブランドタグは現在のように洗練されたデザインではないが、粗削りでストレートなぶん、カシミヤセーターのダイナミックで濃厚な魅力が伝わってくる。ブランドロゴの下に“MADE IN SCOTLAND”と入っているのも、今見ると新鮮だ。分厚いカシミヤセーターのたっぷりとした感じは、気持ちを豊かにしてくれる。

エルメスのベストは、’88年にニューヨークのバーニーズで買った…と思っていたが、それはこのベストではなく黄色のスエードのものだった。これは、それより後の’89〜’92年の間にパリかモナコで買ったはず。ロメオ ジリのコートと同じく、このベストも着る機会が少なかったので状態がいい。こちらはブランドタグに堂々と“MADE IN FRANCE”と記されている。生産地を誇りにしていて、頼もしい。

ラグジュアリーブランドがコングロマリット化していく少し前の’80年代後半〜’90年代半ばの服には、作り手の情熱や愛が伝わってくるものが多い。僕の感傷的すぎる意見かもしれないが、あの頃が懐かしい。地球規模で試練を課されている今だからこそ、熱を感じさせる服に出会いたいと心から思う。

(左)グッチのタートルネックセーター。カシミヤの太番手素材の肌触りが素晴らしい。ネック部分が細くて高いのは後のトム フォードスタイルと同じ。(中)エルメスのベストは濃い緑に惹かれた。フロント部分のキルティングも温もりのある感じで好み。(右)ロメオ ジリのハーフコート。表地があしらわれた内ポケットの形がかわいい。上品なボアの色味と柔らかい毛並みも最高だと思う。どれもなぜ放置していたのか、意味がわからない。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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