今月の時計
H.Moser&Cie.
《スイス・アルプ・ウォッチ ファイナル アップグレード》


Watch

1828年にハインリッヒ・モーザーが設立したブランドをルーツにもつ「H.モーザー」。デザイン表現はかなり個性的で、このモデルは人気のスマートウォッチ風。しかし丁寧な手仕事を施した自社製手巻きムーブメントを搭載する本格派の機械式腕時計で、6時位置はロード中の表示をイメージしたスモールセコンド。“アルプ”とは高山山腹のなだらかな牧草地のことであり、スイスの時計であることを強く主張する。手巻き。SS(DLC)。ケースサイズ44㎜×38.2㎜。¥3,740,000/H.モーザー(エグゼス)


Book

山下 優
(青山ブックセンター本店 店長)

学生時代のアルバイトを経て、青山ブックセンターに入社。2018年から本店の店長を務める。



Drink

成田玄太
(バーテンダー)

人気カフェの店長を経て独立。飲料プロデュース業の傍ら、「Bar werk」のカウンターにも立つ。



Watch

篠田哲生
(時計ライター)

40を超える媒体で時計記事を担当。『教養としての腕時計選び』(光文社新書)が好評発売中。


「ブラックの深みを、あらためて考える」



篠田 今回は、個性派を用意しました。

山下 資料をもらってびっくりしましたよ。この時計、完全にアレですよね。

篠田 そうなんですよ。スイス時計業界では、スマートウォッチにはかなり辛辣な意見が多いんです。そういった空気をうまく創造性へと変換させた時計です。見た目はあの時計ですけど、スイス時計の伝統的な技術をしっかり取り入れた、超本格派の機械式。そのバランスが面白いんですよね。

成田 〝ファイナル〟ということは、これまでも何作かあるってことですか?

篠田 デビューは2016年で、アレの第二世代が誕生した時期ですね。こういう遊び心がある時計って、意外とファンが多いんですよ。このモデルは、ダイヤルに人工素材では最も黒い「ベンタブラックR」を使用しており、スリープモードに入っているように見せています。

山下 デザインも色も含め、この時計はつけることに意味がある。ダイヤルにベンタブラックRを選んだというのも、そういった時計の常識に対する挑戦を投げかけているように思える。ということで、本は『黒の文化史』を選びました。今でこそファッションなどにも取り入れられるブラックですが、西洋文化では忌み嫌われる色でもあった。そういう常識がどう変化していったのか? この時計を見ていて、この本を思い出したんです。

成田 実は僕も、この色に興味が湧きました。「ブラックフォレスト」は、ジントニックに竹炭を加えたもの。黒いカクテルというのもほかにはないインパクトがあって、これまでの常識を覆すお酒ですし、この時計に似てませんか。

篠田 ブラックは定番色ですが、常識を覆してきた色でもある。こういう時計だからこそブラックが似合うし、さらに深く掘り下げて文化的に考えるのも面白い。

山下 ブラックのカッコよさやアバンギャルドさを、あらためてきちんと考えるきっかけになりそうな時計ですね。



ニット¥41,800/シュタイン・シャツ¥35,200/ヨーク(ともにエンケル)



Drink

かなり異色の黒いカクテル「ブラックフォレスト」は、グラスに氷を入れ、ジン(30㎖)に竹炭(ティースプーン1杯)を加え、トニックウォーターを注いで軽くステアする。ちなみに竹炭は無味無臭なので、飲み口はまさにジントニックである。



Book

『黒の文化史』
ジョン・ハーヴェイ著 富岡由美訳
東洋書林

人類が触れた最古の色とされる「黒」に対して、神話や絵画、宗教やファッションなどさまざまなジャンルや視点から考察し、黒という色がもっている文化的側面を語る。定番色だからこそ、その深みを学ぶことに意味があるのだ。


OTHER SELECTION

ストリームライナー・センターセコンド

ケースからブレスレットと秀麗に流れる個性的なデザインをもつ、ラグジュアリーなスポーツウォッチ。マトリックスグリーンフュメと命名されたダイヤルは、光の加減によってさまざまに表情を変える。その美しさも楽しみたい。自動巻き。SS。ケース径40㎜。¥2,365,000/H.モーザー(エグゼス)

エンデバー・センターセコンド コンセプト

ファンキーブルーフュメと命名したダイヤルの美しい色合いを堪能するために、カレンダーもインデックスもブランドロゴも排除した。華やかでありながらミニマルであるという、上質な個性が楽しい。自動巻き。18KWG。ケース径40㎜。世界限定100本。¥2,915,000/H.モーザー(エグゼス)


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※文中すべて、SS=ステンレススチール、DLC=Diamond-Like Carbon、WG=ホワイトゴールドの略です。の略です。

Photos:Yuichi Sugita[POLYVALENT]
Illustration:Crystal
Stylist:Yuta Fukazawa
Composition&Text:Tetsuo Shinoda