今月の時計
A. Lange & Söhne
《A.ランゲ&ゾーネ ランゲ1》


Watch

ドイツ東部の大都市ドレスデンの郊外にある小さな町グラスヒュッテにて、1845年に創業。スイス時計をも凌駕する品質で知られていた。戦後の休眠を経て1990年に会社が復興。’94年に復興第一弾として4モデルを発売。「ランゲ1」はその一つで、表示を重ねないことで視認性を高めるデザインが特徴。大型カレンダーは創業者が考案したザクセン州立歌劇場の5分時計をイメージしたもの。手巻き。18KPG。ケース径38.5㎜。¥4,477,000/A.ランゲ&ゾーネ


Book

山下 優
(青山ブックセンター本店 店長)

学生時代のアルバイトを経て、青山ブックセンターに入社。2018年から本店の店長を務める。



Drink

成田玄太
(バーテンダー)

人気カフェの店長を経て独立。飲料プロデュース業の傍ら、「Bar werk」のカウンターにも立つ。



Watch

篠田哲生
(時計ライター)

40を超える媒体で時計記事を担当。近著に『教養としての腕時計選び』(光文社新書)がある。


「知られざる歴史の裏側を学ぶ」



篠田 今回はドイツ時計。A.ランゲ&ゾーネは1845年に創業した老舗ですが、会社がドイツの東側にあったため、第二次世界大戦後に東ドイツ政府に接収されて、ブランドが一時期消滅してしまうという、艱難辛苦の歴史があるんです。

山下 東ドイツって知らないことが多いですよね。社会主義で生活が大変だったという負の側面ばかりが語られてきましたが、本当のところはどうだったんだろう? そう思って『物語 東ドイツの歴史』という本を選びました。知られざる東ドイツの実態が書かれています。

篠田 東ドイツは悪者か?ってことですよね。自由競争になると、負け組も出てくる。時計業界の場合も日本のクオーツ時計に押されて、’70年代にスイスの多くの時計会社が廃業してしまった。だから技術の継承がうまくいかずに困っているんです。その点東ドイツの時計会社は、国営企業になったので、結果的には経営も安定していたし、時計技術が失われることはなかった。この「ランゲ1」は、東西ドイツが再統一され、会社が復興してから生まれたモデルですが、古くから継承される手仕事や伝統技法が使われているので、スイス時計とは違ったクラシカルな味があるのです。

山下 なるほど。分裂国家だったからこそ生まれた特別な時計なんですね。

成田 深い話になりましたね。こういう歴史にぴったりのお酒がありますよ。ベルリンの壁の崩壊はまさに世界的なニュースでしたし、みんなが喜んでいましたよね。こういうときに飲む祝いの酒といえばシャンパン。そこにドイツということでビールを合わせた「ブラックベルベット」はどうでしょう。一般的にはあまり知られてはいませんが、飲み口はスムーズでおいしいですよ。手順は単純ですが、だからこそバーテンダーの力量が問われます。

山下 意外な組み合わせ。でも、時計もお酒も歴史も先入観なしでフラットな目線で見ると、新しい発見がありますね。



カーディガン¥33,000/スタジオ ニコルソン(キーロ) パーカ¥36,000・パンツ¥30,000/カンタータ(カルネ)



Drink

19世紀末のヨーロッパで生まれた「ブラックベルベット」は、よく冷やした黒ビールとシャンパン(スパークリングワインでも可)を同量注ぎ、軽く混ぜるだけ。作り方は簡単だが、泡が立ちやすいので慎重に。きめ細かな舌触りが特徴。



Book

『物語 東ドイツの歴史 分断国家の挑戦と挫折』
河合信晴著
中公新書

東西冷戦の最前線であり、ある種の実験国家でもあった東ドイツ。独裁主義や秘密警察など恐ろしいイメージが先行しているこの国の実態とはいかなる


OTHER SELECTION

サクソニア・フラッハ

ブランドの創業地がザクセン王国(Saxony)であったという歴史から命名された「サクソニア」。ケース厚は5.9㎜しかないという超薄型モデルは、カレンダーも秒針もないという、シンプルを極めたエレガントウォッチだ。手巻き。18KWG。ケース径37㎜。¥2,178,000/A.ランゲ&ゾーネ

リヒャルト・ランゲ

科学観測用のデッキウォッチを製作した創業者の息子リヒャルトの名を冠したモデル。高精度時計の姿をイメージし、時分針や秒針がすらりと長くデザインされている。ケースは大きめなので、シンプルだが存在感も楽しめる。手巻き。18KPG。ケース径40.5㎜。¥4,114,000/A.ランゲ&ゾーネ


A.ランゲ&ゾーネ TEL:0120-23-1845

※文中すべて、SS=ステンレススチールの略です。

Photos:Yuichi Sugita[POLYVALENT]
Illustration:Crystal
Stylist:Yuta Fukazawa
Composition&Text:Tetsuo Shinoda