9 Sep.

「“用の美”にも通ずる、
私にとって唯一の腕時計」

永山 祐子 | 建築家

「これまで腕時計をする習慣がなかった私がカルティエの腕時計に心惹かれたのは、その歴史に触れたのがきっかけ。懐中時計が主流だった1900年初頭、飛行家のアルベルト・サントス=デュモンから“操縦桿から手を離すことなく時刻を確認できる時計がほしい”と依頼を受けて作られたのが起源と知り、装飾品という枠を超えた“用の美”が根差すことに深く共感しました。デザインと実用の融合は、建築にも通ずるところがあるからかもしれません」。

「そうして十年近く心離れしていた腕時計を改めてしたいと思えるようになり、3年ほど前に出会ったのが、このアンティークの“レ マスト ドゥ カルティエ”です。まず惹かれたのが、戦車の轍がインスピレーションソースというケースのかっこよさ。一方で、見る角度によってはぷっくりと丸みもあって、直線と曲線がおりなすソリッドかつエレガントな佇まいは唯一無二だと思います。柔らかなベージュダイヤルも日ごとに馴染んでいくアリゲーターストラップも、すべてがしっくりきて……」。

「いつもそばにある、スタンダードでいて特別な存在です」

「クラシックだけどモダンさもあり、仕事服から休日のカジュアルまで合わせを選ばないのも理想的です。毎日していてもまったく飽きがこず、手にして改めて漠然とした憧れが“本当にいいもの”という実感に変わりました。この腕時計ならではの存在感はきちんとありながら気負いがなく、そのバランスが絶妙なんですよね。魅力的な腕時計は世の中にたくさんあると思うけれど、私にとってこの一本が“ちょうどいい”。もし買い換えるとしても、また“タンク”を選ぶと思います。それくらい愛着が湧いているんです。リペアしながら大事に使い、いつかは娘に受け継ぎたいですね」。

YUKO NAGAYAMA

東京都生まれ。青木淳建築計画事務所を経て、2002年独立。日本のみならず、アジアやヨーロッパでもプロジェクトを抱える一級建築士。2020年ドバイ国際博覧会日本館(2021年10月開幕) を担当。その他にも大型商業施設や店舗の設計、アートイベントのプロデュースなどその活躍は幅広く、受賞歴も多数。

Photo:Tomoko Meguro
Composition & Text:Yoko Enomoto