本川を望む、この眺めのよさも気に入っています。

生まれ育った広島と東京に、それぞれ自宅とオフィスを構えて、週に一度往復する生活を送っている谷尻さん。
「この家に“戻る”とハッとしますね」 と語る広島の自宅は、築40年以上のヴィンテージマンションを1年半かけてリノベーションしたもの。購入の決め手は、本川に面した見晴らしのよさと、約120m²を誇る広さだった。リノベーションにあたってのコンセプトもずばり「blank(空白)」。

「もともと4LDKだった部屋の仕切りを取っ払って、限りなくワンルームに近づけました。東京では、部屋の大きさにぴったり収まる家具を選んで…って発想になりがち。でもこれだけ広ければ、どうしたって“余白”が出てくる。その何もない余白こそが最高の贅沢だな、と。子どもを連れてくるとうれしそうに走り回ってますよ(笑)」
自身が誇る最も実験的な試みとして、メインとなる建築素材に鉄(!)を用いていることが挙げられる。
「家の素材だけでなく、キッチンカウンターに照明器具、花壇と全部鉄。実は表情豊かだし、好きな材料。ただし放っておくと錆びるし、夏は日の当たる部分がめちゃめちゃ熱くなる(笑)。 確かに手はかかるけど、いかにうまく付き合っていくかを考えるのが幸せなんです。自分の家で実験することでこ れ以上ないリアルポートフォリオになるし、何よりこの家は“未完成”がテーマ。未完だからこそ、ここはどうしよう、あそこはどうしよう、と住みながら常に前向きに考えていられる。自然同様、常に移ろい、時に思いどおりにならないこともあるけれど、それこそが僕の考える建築の美しさなんです」

右手には「自分の意図した家づくりとは違うものをあえて入れたくて」そのまま残した和室。「鉄と木の素材が混在することで、室内空間のやわらかさが顕在化しました」。夜には布団を敷いて寝室に。

アルヴァ・アアルトのテーブルは「仕事用のデスクのはずが気づけば物置きに…(笑)。左手の植栽は、昔から親交の深い、広島県在住の植物屋「叢–Qusamura」店主、小田康平氏にオーダーしたもの。

(UOMO9月号掲載)


谷尻誠 MAKOTO TANIJIRI

43歳・建築家
狭義の“建築”の概念にとどまらず、インテリア、アートなど多彩なフィールドを縦断する活躍ぶり。仕事のみならず、暮らしでも、「体験でハッとする瞬間」を大切にしている。


Photos&Movie:Teppei Hoshida
Edit:Takuya Kurahashi[QT by quark Tokyo]

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